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「個人向け国債はやめとけ」は本当か|4つの「やめとけ論」を財務省データで検証

間瀬 明子 間瀬 明子 更新日:
「個人向け国債 やめとけ」という言葉が検索され、SNSでも繰り返し流れています。利率は上がっているのに、なぜ否定の声が強いのか。財務省が公表している発行条件と適用利率一覧をもとに、批判の中身を1つずつ確かめました。
青空を背景にはためく日本の国旗。個人向け国債への「やめとけ」という批判を検証する記事のヘッダー画像

「個人向け国債はやめとけ」という書き込みは、利率が上がった2026年に入ってからも減っていません。中身を並べると、インフレに勝てない、金利上昇局面で債券を買うのはおかしい、1年間換金できない、そもそも利回りが低いという4つに分かれます。

この記事の結論
  • 4つのうち事実として認められるのは「税引後でインフレに勝てない」と「発行後1年間は換金できない」の2点
  • 個人向け国債は満期でも中途換金でも額面100円につき100円。価格が下がる仕組みがない
  • 「定期預金の4倍」も「利回りが低い」も、比べている年限がずれている

2026年8月募集分の発行条件

個人向け国債は毎月募集されます。8月募集分の申込期間は8月31日まで、発行日は9月15日です。

個人向け国債 2026年8月募集分(財務省)

種類 回号 利率(税引前) 利率(税引後) 償還期限
固定3年 第195回 年1.71% 年1.3626135% 2029年9月15日
固定5年 第185回 年2.06% 年1.6415110% 2031年9月15日
変動10年 第197回 年1.87%(初回) 年1.4901095% 2036年9月15日

出典:財務省|現在募集中の個人向け国債

固定5年の年2.06%は、募集が始まった2005年12月の第1回債から今回までの185回すべてを通じて、もっとも高い水準です。それまでの最高は2007年6月募集(第7回債)の年1.50%でした。

4つの「やめとけ論」は、どこまで正しいか

「やめとけ」の4つの論点を事実と照らす

よく見かける主張 確認できる事実 評価
インフレに負ける 固定5年の税引後は年1.64%。2026年7月のコアCPIは前年同月比1.8%上昇で、0.16ポイント届かない 概ねその通り
金利上昇局面に債券を買うのは愚の骨頂 満期償還も中途換金も額面100円につき100円。値下がりによる損失が生じる仕組みがない 当てはまらない
1年間換金できない 発行後1年間は原則換金できない(被災と保有者の死亡は例外)。1年経過後はいつでも換金できるが、直前2回分の利子相当額が差し引かれる その通り
利回りが低い/定期預金の4倍で有利 どちらも比べている年限が違う。年限をそろえると差は0.62〜1.06ポイント 単純比較はできない

出典:財務省「個人向け国債」発行条件、総務省統計局「消費者物価指数(全国)2026年7月分」、三菱UFJ銀行「円預金金利」(2026年8月25日現在)をもとに編集部作成

論点①②|インフレ負けは概ねその通り、金利上昇局面の批判は当てはまらない

インフレの指摘(1点目)は概ねその通りです。利子には20.315%が源泉徴収されるため、固定5年の年2.06%は受け取る段階で年1.64%。2026年7月のコアCPI(前年同月比1.8%上昇)には届きません。

ただし同じ物差しを預金に当てると差は開きます。1年ものの定期預金(年0.50%)の税引後は約0.40%で、コアCPIとは1.4ポイントの開き。インフレに負けるという理由で避けた資金を預金に置けば、もっと大きく負けます

2点目は個人向け国債には当てはまりません。市場で売買される債券は金利が上がると値下がりしますが、財務省は償還金額を「額面金額100円につき100円(中途換金時も同じ)」と定めています。満期でも中途換金でも、戻る元本は買った額のままです。

変動10年にはもう一段はっきりした事実があります。財務省の適用利率一覧(2026年8月5日現在)では、2027年3月15日に利子を受け取る変動10年は20の回号があり、適用利率はすべて年1.87%で同じです。もっとも古い第83回債(2017年2月募集)から今月募集中の第197回債まで、買った時期が9年違っても同じ半年間の利率は同じです。

なぜ全部同じ利率になるのか

変動10年の利率は買った時期ではなく、そのつどの基準金利×0.66で半年ごとに決め直されます。同じ利子計算期間なら基準金利は同じなので、回号が違っても利率が一致します。8月の基準金利2.83%(直近の10年国債入札の平均落札利回り)×0.66=1.87%。固定5年の基準金利(期間5年の想定利回り、8月は2.11%)とは別の数字です。

出典:財務省「変動10年 発行条件」内の適用利率一覧(Excel)をもとに編集部が集計

「買うのは早い」という指摘は固定3年・固定5年には当てはまります。満期まで利率が変わらず、その後の利上げは受取額に反映されません。ただし損をするのではなく、増える機会を見送るという性質です。

論点③|「1年間換金できない」はその通り。ただし制約は1年で終わらない

発行後1年間は原則として換金できません。その点は主張のとおりです。1年を経過すればいつでも国の買取による中途換金ができますが、そのとき直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれます。0.79685は源泉徴収20.315%を引いた残りにあたる数字で、差し引かれる額は受け取り済みの直近1年分の利子(税引後)とちょうど同額になります。

固定5年(年2.06%)を100万円分持ったときの手取り利子

保有期間 受け取った利子 差し引かれる額 手元に残る利子
1年 約16,415円 約16,415円 実質0円
3年 約49,245円 約16,415円 約32,830円
5年(満期) 約82,076円 なし 約82,076円

財務省の中途換金ルールと固定5年 第185回債の税引後利率をもとに編集部が試算(いずれも税引後、端数は利払日と換金日の関係で異なります)

元本は減らず、減るのは利子だけ、減り方も一定です。「1年を過ぎれば自由になる」と考えるよりも「いつ換金しても直近1年分の利子を置いていく」と理解したほうが判断を間違えにくくなります。1年以内に使う予定のお金を入れる意味はありません。なお、災害救助法の適用対象となる大規模な自然災害で被害を受けた場合と、保有者本人が亡くなった場合は1年を待たずに換金できます。

論点④|「利回りが低い」と「定期預金の4倍」は、どちらも年限がずれている

正反対の結論に見えて、どちらの主張も比べている期間がそろっていません。個人向け国債と定期預金はいずれも元本が戻る商品なので、年限をそろえて並べます。

年限をそろえた比較(2026年8月募集分 × 三菱UFJ銀行スーパー定期・300万円未満)

年限 個人向け国債 スーパー定期
3年 固定3年 年1.71% 年0.80% +0.91ポイント
5年 固定5年 年2.06% 年1.00% +1.06ポイント
10年 変動10年 年1.87%(初回・半年ごと見直し) 年1.25%(満期まで固定) +0.62ポイント

出典:財務省「個人向け国債」発行条件、三菱UFJ銀行「円預金金利」(2026年8月25日現在、いずれも税引前)。定期預金の金利は各行・各時期のキャンペーンで異なります

固定5年の年2.06%が「定期預金の4倍」になるのは、1年ものの定期預金(年0.50%)と比べているからです。同じ5年で比べると差は1.06ポイント。それでも100万円を5年置けば、受け取る利子は税引後で約8万2,000円と約4万円、4万円強の差になります(利子を再投資しない単純計算)。

1万円単位で買えて購入限度額はありません。預金保険で保護されるのは、定期預金など一般預金等では1金融機関につき元本1,000万円までとその利息等ですが、個人向け国債の発行体は国なので、上限を意識して口座を分ける必要もありません。

政府側の事情|税優遇は「事項要求」、12月から「個人向け国債プラス」へ

「売れなくて困っているから押しつけている」という批判が強まったきっかけは、2026年8月の報道です。共同通信は8月20日、財務省と金融庁が2027年度税制改正要望に個人向け国債の税制優遇を盛り込む方針を固めたと伝えました。与野党からは相続税の減免案やNISA対象化案が出ています。ただし要望の形式は金額も仕組みも明示しない「事項要求」となる見通しで、公平性を損ねるという慎重論もあり、内容が固まるのは年末の税制改正大綱です。2026年8月時点ではNISAの対象外です。

すでに決まっている変更もあります。財務省は2026年12月募集分(2027年1月発行分)から販売対象を一部の法人等(非営利法人、非上場法人等)に広げ、商品名を「個人向け国債プラス」に変更すると公表しました。学校法人やマンション管理組合などが想定され、商品性は変わりません。目的は財務省自身が「国債の安定保有層の拡大を図る観点から」と書いており、買い手を増やしたい事情は隠されていません。

編集部の意見

事実として認められたのは「税引後でインフレに勝てない」と「発行後1年間は換金できない」の2点。残る2つは、市場で売買する債券と個人向け国債を取り違えているか、比べている年限がずれているかのどちらかでした。

そのうえで、インフレに負けるという指摘は軽くありません。個人向け国債は資産を増やす商品ではなく、円で置いておくしかないお金の置き場所を、預金より1段よくする商品です。増やす枠は株式や投資信託が担い、守る枠を国債と預金が分け合う。「やめとけ」と言う人と「定期預金の上位互換」と言う人が噛み合わないのは、この役割分担の話をしていないからです。編集部としては、選ぶ基準を利率ではなくそのお金をいつ使うかに置くことをおすすめします。

編集部が置いている判断の順序
  • 1年以内に使うお金は入れない。1年ちょうどで換金すると受け取った利子が全額差し引かれる
  • 使う時期が決まっているお金は固定3年・固定5年。満期に合わせれば利率が確定する
  • 使う時期が決まっていないお金は変動10年。半年ごとに見直されるので、買った時期の金利水準に縛られない
  • 増やすことが目的のお金は国債の役目ではない。NISAなどリスク資産の枠で考える

政府が買い手を求めているという指摘は、事実として正しいと考えます。ただ、目的が政府側にあることと、商品が個人にとって不利であることは別の話です。利率も中途換金のルールも償還金額も財務省が募集ごとに公表しており、判断材料は出そろっています。税優遇を待つ理由も見当たりません。中身が固まるのは年末で、仮にNISA対象化が決まっても、そのときに買う分から適用されると考えるのが自然です。

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よくある質問

固定3年と固定5年は満期まで利率が変わらないため、その後さらに金利が上がっても受取額は増えません。ただし価格が下がる仕組みはなく、満期には額面100円につき100円が戻ります。利上げに追随させたいなら、半年ごとに利率が見直される変動10年になります。

2026年8月募集分では固定5年(年2.06%)が変動10年(年1.87%)を上回ります。変動10年は基準金利に0.66を掛ける仕組みで、8月の基準金利は2.83%でした。半年ごとに見直されるため、利上げが続けば途中で入れ替わることがあります。

2026年8月時点では対象外で、利子には20.315%が源泉徴収されます。財務省と金融庁が2027年度税制改正要望に税制優遇を盛り込む方針と報じられていますが、金額も仕組みも示さない事項要求とされ、内容は決まっていません。

間瀬 明子

間瀬 明子 金融・保険ライター

日本保険仲立人協会の登録を受けた元保険ブローカーで、日商簿記2級保持者。総合商社の保険代理店営業として3年勤務。大型プロジェクトのリスクコンサルティングを請け負い、年間120契約以上の金融・保険商品を提案・仲介してきました。比較が難しい保険商品を様々な角度から分析してわかりやすく解説していきます。株式会社イードが運営するお金の専門メディア『マネー達人』に寄稿もしています。スマ子のアカウントでX運用中。

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