サナエトークン問題―金融庁の登録制度と、暗号資産を巡る法的ルール
2026年3月初頭、暗号資産業界だけでなく政界をも巻き込んだ「サナエトークン(SANAET)」を巡る騒動は、デジタル資産のあり方に一石を投じました。
日本の総理大臣をモチーフにしたこのトークンは、わずか数日で急騰と暴落を経験し、現在は金融庁が関連業者に対する調査を検討している。と報道されています。
サナエトークンの経過
サナエトークンの経緯についてまとめます。

画像引用:NoBorder│Japan is Back
発行とプロジェクトの目的
発行日と基盤
2026年2月25日、Solana(ソラナ)ブロックチェーン上で発行されました 。
掲げられた理念
「最新テクノロジーを用いて国民の声を政策決定者に届ける」ことを目的とするプロジェクトの一環として発表されました 。
新しいテクノロジーで民主主義をアップデートする「Japan is Back」プロジェクトを推進するためのインセンティブトークン「SANAE TOKEN」が本日発行されました。
「Japan is Back」は、NoBorderアプリコミュニティの意見を踏まえながら、…— NoBorder/ノーボーダー【公式】 (@NoBorder_info) February 25, 2026
設計(トークノミクス)
総供給量は10億枚。そのうち約65%以上が運営側の保有分(リザーブ)として確保されており、流動性ロック(運営による売却制限)が設定されていない構造が、専門家や投資家から指摘されていました。
出典:
thejapantimes│Takaichi clarifies she is not affiliated with ‘sanae token’ cryptocurrency
NoBorder│Japan is Back
2026年3月2日:高市首相自ら「無関係宣言」
全面否定の声明
2026年3月2日、高市早苗氏は自身の公式SNSにおいて、 本トークンについて「全く存じ上げない」「承認も一切与えていない」とする注意喚起を投稿しました。
SANAE TOKENという仮想通貨が発行され、一定の取引が行われていると伺いました。…
— 高市早苗 (@takaichi_sanae) March 2, 2026
価格の暴落
この公式声明の直後、トークン価格は一時約53%急落しました 。
当局の動向
2026年3月3日、金融庁が資金決済法違反(無登録での暗号資産交換業)の疑いで、関連業者への調査を検討していることが報道されました。
参照:
dexscreener│SNAET推移
産経新聞│金融庁が仮想通貨「サナエトークン」を調査へ 運営企業、暗号資産交換業者登録確認できず
過去にあった事例
サナエトークンのように、著名人の影響力や政治的文脈を利用して価値を形成しようとした暗号資産・デジタル資産の事例は過去にも存在しました。
影響力を利用した独自トークン(2017年)
経緯:インフルエンサーらがSNSで価格を吊り上げた後、自身が保有する全トークン*を一斉に売却しました 。
結果: 多くの一般ユーザーが損失を被り、プラットフォーム運営側が取引停止や手数料の寄付、発行者による買い戻しなどの対応を余儀なくされました
*当時取引されていたものは、サービス内で「疑似株」や「VA」と呼ばれていました。当時のニュースやSNSでは、「株を売った」「株価が暴落した」と表現されていましたが、これらは証券取引所に上場している「株式」ではなく、特定の会社に対する所有権や議決権を持つものでもありませんでした。
出典:ITmediaNews │VALUで価格つり上げ→全株売却 YouTuberヒカル氏に批判 全株買い戻しへ
著名人を広告塔にしたICOの失敗(2018年)
著名なアーティストをイメージキャラクターに採用し、巨額の資金を集めたICO(新規コイン公開)プロジェクトです。
経緯:運営側の関係者に過去の行政処分歴があったことや、日本の規制を回避するための海外移転などが不信感を招きました。
結果:プロジェクトは事実上停止し、公式サイトやホワイトペーパー(事業計画書)も閉鎖されました。
出典:ITmediaNews │仮想通貨スピンドル(ガクトコイン)とは?特徴や今後の見通し・通貨の問題点を徹底解説
これらの事例に共通するのは、著名人の知名度や「社会を変える」といった抽象的な物語で価値が支えられている 「期待感の先行」と運営側が大量のトークンを保持し、市場の透明性が欠如している。「運営の不透明性」です。
作る(発行)のは簡単だが、売る(交換業)には国の許可がいる
現在主流のブロックチェーンでは、専門知識がなくても短時間でトークンを発行できるツールが普及しています。独自トークンを発行すること自体に法的な制限はほとんどありません。
しかし、問題は その先の「暗号資産交換業」です。
日本国内では、暗号資産の交換や販売を行うには 「暗号資産交換業者」としての登録が必須です。また、投資的な性質を持てば金融商品取引法の規制が適用されます。
暗号資産規制全般のサイト(金融庁)
暗号資産に関する基本的な制度、利用者への注意喚起、登録業者の一覧などの情報が確認できる金融庁サイトです。
暗号資産に関する利用者の方へ
https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/index.html
資金決済法に基づく新しい制度(登録制)の解説や、詐欺的なコインへの注意喚起が掲載されています。
暗号資産交換業者登録一覧
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasoutuka.pdf
国内で暗号資産の売買や交換を行うために必要な「登録」を受けている業者を公示している資料です。法的に認められた全28業者(2026年時点)の名称、登録番号、取り扱う暗号資産の名称が記載されています。
暗号資産に関連する制度のあり方等の検証
https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250410_2/01.pdf
暗号資産が法律(資金決済法・金融商品取引法)上でどのように定義され、今後どのように規制が強化されるかを議論している政府の審議会資料です。
2025年から2026年にかけて進められている規制見直しの背景。決済手段から「投資対象」へと変化した実態に合わせ、金融商品取引法(金商法)への移行やインサイダー規制の導入が検討されています。
暗号資産制度ワーキング・グループ 議事次第
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/angoshisanseido_wg/gijishidai/20250731/04.pdf
資金決済法第2条第14項における「暗号資産」の法的定義や、セキュリティトークン(有価証券型トークン)に適用される金商法の範囲について図解・解説されています。
根拠となる主な法律
資金決済に関する法律(資金決済法)
暗号資産の定義(第2条第14項)や、暗号資産交換業の登録(第63条の2)について規定されています。

資金決済に関する法律(e-Gov):第63条2(暗号資産交換業者の登録)
金融商品取引法(金商法)
投資性が強いトークン(電子記録移転権利)の規制や、暗号資産デリバティブ取引、および不公正取引(風説の流布等)の禁止について規定されています。
これらの資料から、日本国内で暗号資産を発行・販売・交換するビジネスを行うには、金融庁への登録が義務付けられており、無登録での営業は刑事罰の対象(3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金など)となることが明示されています。
資金決済に関する法律(e-Gov):第107条(罰則)
サナエトークンのケースで金融庁が調査を検討している事実は、技術的な「手軽さ」の裏側に、法的責任が伴うことを改めて示しています。
情報の精査と自己責任の徹底
現職首相の名前が無断で利用されたという点で極めて特異な事例ですが、その構造は過去のインフルエンサー関連のトラブルと類似しています。
情報の不確実性と精査の必要性
SNSやWeb上では日々膨大な情報が流通していますが、そこには客観的な事実だけでなく、投機的な憶測や意図的な誤情報、さらには悪意ある詐欺的コンテンツが混在しています 自ら一次情報にあたって真偽を確かめ、その本質を理解した上で意思決定を行う姿勢が不可欠です。
DYORの重要性
暗号資産市場に参加するにあたっては、情報の裏付けを自ら調査・確認する 「DYOR(Do Your Own Research / 自分で調べろ)」の精神を徹底することが、最大かつ必須の防衛スキルとなります 。
