ふるさと納税ポイント廃止-楽天は行政訴訟も。「プラットフォーム」は一体どうやって儲かっているの?

2025年10月、ふるさと納税市場に大きな変化が訪れます。 総務省が打ち出した「寄附に伴うポイント付与の全面禁止」により、長らく続いてきた“ポイント競争”が終わりを迎えるのです。
ポイント目当てでふるさと納税を利用する場合は、2025年9月30日までにふるさと納税申し込みが必要です。ふるさと納税は、ただ納税するだけと比較して、「返戻品」がもらえて「ポイントが付与されていた」というお得な状況だったのに。なぜ今回ポイント廃止に至ったのでしょうか?
また、ポイント廃止は寄附者の行動や市場の構造にどう影響するのでしょうか。ポイント廃止を機に気になるふるさと納税のビジネスを考えてみます。
ふるさと納税のプラットフォームとは?(寄付金額/市場シェア順)
- 楽天ふるさと納税:ふるさと納税ポータルサイト市場で最も高い寄附割合を占めており、楽天経済圏との連携が強み
- さとふる: 包括的な自治体向け業務代行サービスを特徴としています。
- ふるさとチョイス: さとふると僅差でシェアを競っており、掲載数・品揃えが豊富
- ふるなび: 上位4サイトの一角を占めています
上位4サイトが市場全体の寄附割合の約94%、市場は寡占状態
プラットフォームの稼ぎ方:収益の柱は「手数料」
ふるさと納税プラットフォームの主な収益源は、自治体から受け取る 手数料 です。
寄附額に応じて 10〜13%前後 が徴収されるのが一般的で、例えば兵庫県宝塚市は「さとふる」に寄附額の13.2%を支払っています。
この手数料は単なる“掲載料”ではなく、寄附受付や決済、配送管理、収納事務などの 事務代行サービス を含む包括的な業務委託料としての性格を持っています。
自治体にとっては手間のかかる業務をアウトソースできるため、費用が高くても契約するメリットがあります。
参照:
東海テレビ│ふるさと納税の裏側で…寄附額の10%超が『手数料』でサイト業者へ 東海3県全市町村調査で判明
兵庫県宝塚市│ふるさと納税推進事業のうち、ふるさと納税業務委託料、システム使用料の内訳及びポー タルサイトの選定理由
さとふるの戦略:ワンストップ業務代行で自治体を囲い込む
たとえば、「さとふる」が強みとしているのは、自治体向けの 包括的な業務代行サービス です。
寄附の募集から申し込み受付、寄附金の収納、返礼品の在庫管理や配送まで、運営に必要なプロセスをすべてカバーしてくれます。
平均で10以上のポータルサイトを利用している自治体にとって、運営業務の負担は大きな課題です。さとふるのように 一括で任せられる仕組み は非常に魅力的であり、結果として高い継続利用率を誇っています。
その成果は収益にも表れており、2020年以降は最終利益20億円超の黒字を記録。安定したビジネスモデルを築いていることがわかります。
ふるさと納税サイト「さとふる」決算公告(第11期)https://t.co/NWJoxeFunH
さとふる 2025年3月期。利益出てます
第11期 決算公告
当期純利益:30億1400万円
利益剰余金:33億1500万円— 官報ブログ (@kanpo_blog) July 9, 2025
出典:
楽天の強み:巨大な「楽天経済圏」
一方の「楽天ふるさと納税」は、ふるさと納税で稼ぐというよりも 楽天グループ全体の戦略事業 として位置づけられています。
寄附をすると楽天ポイントが付与され、それを楽天市場や楽天トラベルなど70以上のサービスで利用可能。
ふるさと納税は新規顧客を楽天経済圏に呼び込み、長期的に囲い込むための 顧客獲得チャネル として機能しています。
楽天は「ポイントは自社負担」と主張しており、実際には自治体に負担を求めていません。つまり、ポイントは楽天にとって“コスト”というより マーケティング投資 といえます。
加えて、楽天は1億超のIDデータを活用したマーケティング支援を自治体に提供。単なるポータル運営にとどまらず、地域振興のパートナーとしての立ち位置を強めています。
筆者は今回のポイント付与廃止による、一番ダメージが大きいプラットフォームは行政訴訟も起こした楽天だと考えられます。一方で新規の見込みは薄くなりますが、「品ぞろえ」で他プラットフォームに劣らない限りは、現在獲得しているユーザーが流れることは少ないかと思います。
広告・プロモーションも拡大
プラットフォームの収益は手数料だけではありません。
寄附額を伸ばしたい自治体に対し、返礼品の露出を増やす 広告枠の販売 や、Web広告・SNS広告、メルマガなどのプロモーションを提供しています。広告費をもらっています。(※自治体には広告費を寄附額の5割に抑えるというルールがあります。)
ポイント廃止後は「お得感」だけで寄附を集めることができなくなるため、自治体は返礼品や地域の魅力を効果的にアピールする必要性が増します。
結果として自治体から強いプラットフォームへの広告サービスの需要は一層高まると見られ、現時点でシェアを持っているプラットフォームにとっては新たな収益チャンスになるといえます。
総務省の狙い:制度の健全化
今回の規制の目的は「制度の趣旨である地域支援への回帰」です。
総務省は2025年10月から、ふるさと納税でのポイント付与を全面禁止します。松本総務大臣は閣議後の記者会見で「寄附者はすでに実質2,000円の負担で返礼品を受け取るなど十分なメリットを得ており、さらにポイントを付与するのは過剰」と指摘。制度の本来の趣旨である地域支援に立ち返るための「適正化措置」との考えを示しました。
これまでも商品券や高還元率の返礼品など、“お得合戦”が問題視されるたびに規制が強化されてきました。
2025年10月のポイント全面禁止もその流れの一環で、過度な競争を抑え、寄附金を地域により多く還元させる狙いがあります。
ただし楽天は「営業の自由を侵害している」と主張し、2025年7月に総務省を相手に行政訴訟を提起しました。この法廷闘争は単なる事業上の問題にとどまらず、 国とプラットフォームの主導権争い という側面も見えてきます。
本日、ふるさと納税へのポイント付与を禁止する総務省の告示に対し、無効確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。楽天は創業以来、「楽天市場」をはじめ様々な事業を通じて地域創生に取り組んできており、現在ポイント付与は当社負担で実施しています。ポイント付与の禁止は、民間企業と自治…
— 三木谷浩史 Hiroshi (Mickey) Mikitani (@hmikitani) July 10, 2025
寄附者の反応:「続ける」人が8割
ポイント廃止によりふるさと納税のメリットが小さくなりますが寄附者の行動にどのような影響が出るのでしょうか。ある調査では、ポイント廃止後も 約8割がふるさと納税を続ける意向 を示しています。
一方で「お得感が減る」「モチベーションが下がる」と答えた人も4割ほどおり、短期的には寄附額の落ち込みや、駆け込み需要が発生する可能性が高いと予想されます。
さらに、クレジットカード決済でのポイント付与は規制対象外のため、一定の還元を享受できるルートは残されています。
市場は「寡占化」が加速
ふるさと納税市場はすでに 楽天・さとふる・ふるさとチョイス・ふるなびの4社で約94%のシェア を握る寡占状態です。
ポイント廃止により差別化要素を失う中小サイトはさらに苦境に立たされ、淘汰が進む可能性が高いと考えられます。
自治体側も平均10以上のサイトを併用しており、管理負担は大きな課題です。結果として「集客力の弱いサイトとの契約を減らす」動きが進み、寄附は大手サイトに集中すると見られています。
そんな中、2025年からはアマゾンの本格参入 が控えており、競争環境は一気に再編される見込みです。
今後の競争軸は「返礼品・地域の魅力と価値」に移行
ポイント廃止によって、 今後の競争はどうなるのでしょうか?ふるさと納税で「いかにポイントを稼ぐか」ではなく、自治体は返礼品・地域の魅力と価値で勝負。プラットフォームは自治体・ユーザーへの利便性のよさで勝負することが予想されます。
- 返礼品の質・種類
- サイトの利便性
- 地域とのつながりやストーリー
ユーザー側はより「返礼品+地域応援」という本来の趣旨に目を向けるようになり、自治体は今以上に独自の魅力を打ち出す必要が出てきます。
まとめ:市場は縮小ではなく再編へ
筆者の所感としては、ふるさと納税ポイント廃止は、家計にとてっは「魅力の減少」であることは間違いありません。
しかし自治体の立場では、制度の原点である「地域支援」として自分たちの自治体をアピールする本質的な価値の追求に制度を進化させるきっかけ になる可能性があると考えています。