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東京海上2025年決算-自動車保険保険料は上がっても契約数は横ばい

作成日

東京海上日動の2025年度決算を読み解く。「値上げすれば解約が増える」「高コストが利益を圧迫する——筆者が立てた二つの仮説は、データの前でどう変わったか。

決算の概要:増収と減益が同時に起きた

東京海上ホールディングスが2026年5月20日に公表した2025年度(2026年3月期)決算*1は、自動車保険に関して印象的な数字を示しました。売上は過去最高水準に近い伸びを見せた一方で、本業の稼ぎである保険引受利益は前年から約530億円も落ち込みました。増収と減益が同時に起きるという、一見矛盾した結果です。

東京海上日動 自動車保険 主要KPI(JGAAPベース)
指標2024年度実績2025年度実績前年比増減
正味収入保険料1兆1,741億円1兆2,321億円+580億円(+4.9%)
保有契約件数(概算)約404万件約404万件横ばい
発生保険金(損調費含む)8,137億円8,321億円+184億円(+2.3%)
E/I損害率67.4%68.5%+1.1pt
保険引受利益(準備金影響除く)782億円252億円▲530億円(▲67.6%)

出典:東京海上ホールディングス「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」「FY2025決算概要及び2026年度通期業績予想」(いずれも2026年5月20日公表)*1 *2

この記事では、この決算を前に筆者が立てた二つの仮説をデータで検証します。

仮説①の検証:「値上げしても売上は変わらない」

筆者の事前予測:「毎年保険料を引き上げているので、契約台数が多少減っても売上は維持されるはずだ。逆に値上げで離脱が増えれば、プラスマイナスで横ばいに収まるだろう」

筆者事前仮説

値上げの規模と頻度

東京海上日動は近年、異例のペースで保険料率を引き上げてきました。2025年1月に約3.5%の改定を実施したのに続き、同年10月には平均約8.5%という、これまでの最高改定率(2013年の4.6%)を大幅に上回る値上げを断行しました*1。さらに2026年1月には年齢区分や車齢別に料率を細分化する商品改定も加えています*1

こうした動きは東京海上日動に限りません。損害保険ジャパン・三井住友海上・あいおいニッセイ同和も、2025〜2026年にかけて過去最大規模の値上げを複数年連続で実施・計画しており*1、業界全体が「インフレ転嫁」の局面にあります。

主要損保各社の自動車保険 料率改定動向(2025〜2026年)
会社名主な改定時期改定率・改定方針
東京海上日動2025年10月平均約8.5%引き上げ(過去最高水準)
東京海上日動2026年1月商品改定・年齢および車齢別較差の細分化
損害保険ジャパン2026年1月約7.5%引き上げ(2年連続)
三井住友海上2026年1月約7.0%引き上げ(3年連続)
あいおいニッセイ同和2026年1月約6.0%引き上げ(3年連続)

出典:東京海上ホールディングス「2026年3月期 決算短信」*1

結果:「横ばい」どころか「増収」だった

筆者の予測は「横ばい維持」でしたが、実態はそれを上回りました。保有契約件数は約404万件でほぼ変わらず、目立った解約増は観察されませんでした*1。そして正味収入保険料は前年の1兆1,741億円から1兆2,321億円へと、580億円(+4.9%)の増収を記録しました*1

2026年4月単月の速報でも、ノンフリート(個人向け)は前年同月比105.9%、フリート(法人向け)は115.5%と好調に推移しており*1、値上げ効果の継続が確認できます。

検証結果:予測を「増収」へアップデート

仮説の「横ばい」は、「明確な増収」として上方修正が必要です。強固な代理店チャネルと、自動車保険という生活必需品の価格非弾力性が、値上げをそのまま売上増に変換しました。「客は逃げない」という点では正しかったものの、それ以上に好結果でした。

仮説②の検証:「事故支払額の高騰が利益を圧迫」

筆者の事前予測:「部品代や修理工賃の上昇で、保険金の支払額が増え続けている。値上げしても、コスト増がそれを打ち消して利益の重荷になっているはずだ」

筆者事前仮説

三つの構造的な要因

ロスコスト(事故支払金)の高騰は、以下の三要因が同時に作用した結果です。

  • 先進安全技術車(ASV)の普及と部品価格の上昇
    カメラやレーダーを搭載した車両は修理コストが格段に高くなります。加えて、世界的な原材料・物流費の高騰と円安が輸入部品の単価を押し上げており、自動車部品価格指数は2020年比で117まで上昇しています*1
  • 修理工場の時間当たり工賃(指数対応単価)の引き上げ
    国土交通省と日本損害保険協会のガイドラインを契機に、東京海上日動は日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連)と2025年度に団体協約を締結。2025年7月入庫分から最低工賃単価を1時間あたり7,380円(前年比+550円、+8.0%)へと引き上げました*1
  • 事故頻度の下げ渋り
    当初、事故頻度は前年比▲1.0%の減少を見込んでいました。しかし実績は▲0.5%弱にとどまり、想定より事故が多く発生しました*2

結果:引受利益が7割近く消えた

売上(正味収入保険料)は約4.9%伸びた一方、保険金単価は約7.0%上昇しました。増収幅を損害コストの上昇が上回ったことで、保険引受利益は前年の782億円から252億円へと、約530億円の落ち込みとなりました*1 *2

自動車保険のロスコスト関連指標(JGAAPベース)
指標2024年度実績2025年度実績増減
保険金単価上昇率(車両・対物)+7.0%前年比
事故頻度増減率▲0.5%弱想定(▲1%)を上回る
発生保険金(損調費含む)8,137億円8,321億円+184億円
E/I損害率67.4%68.5%+1.1pt
保険引受利益782億円252億円▲530億円(▲67.6%)

出典:東京海上ホールディングス「2026年3月期 決算短信」「FY2025決算概要及び2026年度通期業績予想」(2026年5月20日公表)*1 *2

検証結果:データで完全に立証

仮説②はデータで完全に立証されました。2025年度の自動車保険は「売上は伸びているのに、利益が激減する」という構造的な圧迫下にありました。これは一時的な変動ではなく、インフレと整備業界の賃上げという複合的な構造変化によるものです。

2026年度:「収益の反転」は起きるか

では、この損益構造はいつ改善するのでしょうか。東京海上HDが公表した2026年度(IFRS基準)の通期予想*2は、明確な回復シナリオを示しています。

2025年10月の値上げ効果が「フル」で反映される

1年契約の自動車保険は、2025年10月の改定が当年度中に収益化されるのは更新分のみです。2026年度には全保有契約が順次更新を経て既経過保険料に組み込まれ、レートアップ効果だけで約480億円の収益改善が織り込まれています*2

損害率が1.7ポイント低下する計画

IFRSベースの自動車E/I損害率は67.8%(2025年度)から66.1%(2026年度予想)へ改善する見通しです。自然災害の想定は保守的に引き上げても、なおコスト体質が改善される強固なシナリオです*2

自動車保険の保険関連損益と主要指標(IFRSベース)
指標2025年度実績(IFRS)2026年度通期予想(IFRS)増減
保険関連損益(税前・億円)176億円580億円+404億円(+229.5%)
E/I損害率67.8%66.1%▲1.7pt
うち、自然災害影響1.0pt1.5pt+0.5pt(保守的に見積もり)

出典:東京海上ホールディングス「Overview of FY2025 Results / FY2026 Projections」(2026年5月20日公表)*2

事故そのものを減らす「Re-New」戦略

料率改定だけに依存しない取り組みとして、東京海上日動はドライブレコーダー付き自動車保険(DAP)の累計100万台突破、修理工場の技術水準に応じた工賃評価加算制度の新設、Webダイレクトチャネルの拡充を同時に進めています*1。事故頻度そのものを構造的に下げることで、インフレ局面でも安定した収支体質を目指す戦略です。

  • ドライブレコーダー付き自動車保険(DAP):累計100万台突破
  • 修理工場の技術水準に応じた工賃評価加算制度の導入
  • Webダイレクトチャネルの本格展開

まとめ

筆者の仮説①は「横ばい」から「増収」へのアップデートが必要でした。仮説②は残念ながら正確に的中しました。2025年度は「値上げ効果よりも、損害コストの積み上がりが先行した移行期」と位置づけられます。2026年度は改定効果が利益として本格結実する年になる——そう読むのが、現時点のデータからは自然な結論です。ロスコスト高騰の洗礼は2025年度に受け切ったと見るのが、現在最も整合性の高い解釈です。

出典

*1 東京海上ホールディングス株式会社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年5月20日公表

*2 東京海上ホールディングス株式会社「Overview of FY2025 Results & FY2026 Projections(2025年度決算概要及び2026年度通期業績予想)」2026年5月20日公表