円安で政府は「ホクホク」?知られざる巨大なサイフ「外為特会」とは?-数値で解説
最近、ニュースやSNSで「 外為特会(がいためとっかい)」という言葉を耳にしませんか?特に高市早苗氏が、円安による運用益を「ホクホク状態」と表現したことで、一気に注目が集まりました。
「国にお金があるなら、減税や給付金に回してよ!」と思う反面、「そもそも、そのお金ってどこから来たの?」と疑問に思う方も多いはず。今回は、日本の国家財政に隠された「巨大なサイフ」の正体を解き明かします。
そもそも「外為特会」って何?
正式名称は「外国為替資金特別会計」。 一言でいえば、日本政府が「円安や円高を防ぐための介入」をしたり、そのために必要な「ドルの貯金(外貨準備)」を管理したりするための専用口座です。
私たちが普段使っている税金などの「一般会計」とは別に管理されており、その規模は1兆ドル(約150兆円〜)を超える、まさにモンスター級のサイフです。
ホクホクの内容:財務省統計「外貨準備等の状況」を読み解く3つのポイント
財務省の「外貨準備等の状況」には、主に以下の項目が並んでいます(単位百万米ドル)。
ポイント1.統計表の主要な数字をピックアップ
外貨準備は主に「預金」と「有価証券(米国債など)」で構成されています。
| 項目 | 金額(百万米ドル) | 円換算額(1ドル=150円) | 解説 |
|---|---|---|---|
| 外貨 | 1,160,033 | 174.0 兆円 | 米国債などの運用・現金分。 |
| IMFリザーブポジション | 11,264 | 1.7 兆円 | IMFに対する債権。 |
| SDR(特別引出権) | 60,845 | 9.1 兆円 | IMFから割り当てられた資産。 |
| 金 | 117,172 | 17.6 兆円 | 金高騰により価値が大幅アップ。 |
| その他 | 16,331 | 2.4 兆円 | その他の準備資産。 |
| 合計 | 1,369,775 | 205.5 兆円 | 日本の「外貨準備高」総額。 |
外貨預金: すぐに引き出せる「普通預金」のようなものです。為替介入(ドル売り・円買い)を行う際は、まずここから資金が出されます。
有価証券: 利息を稼ぐための「定期預金や投資」のようなものです。
この資産額に対し、裏側にある「負債(借金)」を合わせると、現在の外為特会の財務状況は以下のようになります。
| 項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 資産合計(時価) | 約 205.5 兆円 | 上記表の合計。 |
| 負債合計(借金*) | 約 130.0 兆円 | 為券発行など(円建てのため固定)。 |
| 純資産(含み益含む) | 約 75.5 兆円 | これが「ホクホク」 |
*借金は令和年度 外国為替資金特別会計令和6年度外国為替資金特別会計財務書類をベースにスマートマネーライフが編集。
ポイント2.円建てに換算して「ホクホク」
ここで重要なのは、「いつのレートで換算するか」す。これが「含み益(ホクホク)」の計算の肝になります。
日本の外貨準備高を、計算しやすいように約 1.2兆ドル($1,200,000$ 百万ドル) として試算します。
- レート140円の場合(時価A):
1.2兆ドル × 140円 = 168兆円 - レート150円の場合(時価B):
1.2兆ドル × 150$ 円 = 180兆円 - その差額(評価益の増加):
180 兆円 - 168$兆円 = 12兆円
この「12兆円」という数字が意味すること
わずか10円、円安に振れるだけで、日本の資産価値は12兆円も膨らみます。これは、先ほど計算した「1円=1.2兆円」の10倍のインパクトです。この12兆円という金額は、日本の国家予算(一般会計)の約1割に相当する、凄まじい規模です。
140円と150円の「決定的な違い」
- 140円の時: 負債(為券)が約130兆円だとすると、純資産(含み益含む)は約38兆円。
- 150円の時: 純資産は約50兆円にまで跳ね上がります。
この「たった10円で12兆円も評価上の余力が変わる」という事実こそが、高市総理の「ホクホク」発言の背景にある数字の正体です。
ステップ3:運用の「利息収入」を推計する
次に、このサイフが毎年どれくらいのお金を生んでいるかを推計します。外為特会の収益は、以下の「金利差(スプレッド)」で決まります。

- 受取利息(ドル):
証券(9,000億ドル)に米10年債利回り(仮に4%)をかけると、年間で約360億ドル(約5.4兆円)の利息が入ります。 - 支払利息(円):
ドルを買うために発行した「為券」の利息を払います。日本の短期金利が仮に0.25%で、130兆円分発行していれば、年間支払いは約0.3兆円です。
【結果】: 5.4兆円(入る) - 0.3兆円(払う) = 約5.1兆円の黒字
なんですぐに使えないの?
「48兆円の含み益」や「年間5兆円の利息」があるなら、増税なんてせずにそこから出せばいいじゃないか。そう思うのは当然の感覚です。
しかし、政府や財務省がこれほど巨額の資金を「自由に使えない」と言うのには、単なる出し渋りではない、 国家経営上の極めて深刻な3つのハードルがあるからです。
「10円」の変動で「12兆円」が蒸発する
最も大きな理由は、今の「ホクホク」が「円安」というボーナス依存している点です。
しかし、逆の視点で見ると恐ろしさがわかります。 もし政府が「150円の時の含み益」をあてにして予算を組んでしまい、その後、レートが140円に戻った(10円の円高)だけで、12兆円という巨額の財源が「一瞬で蒸発」してしまうからです。
これが、財務省が「含み益はあくまで帳簿上の数字であり、確実な財源とは見なせない」と強く主張する最大の根拠です
「30%ルール」の壁
外為特会には、保有資産の約30%を積み立てておくというガイドラインがあります。これは将来の円高で損失が出た際、国民の税金(一般会計)で補填しなくて済むようにするための「防波堤」です。この防波堤を崩してまで予算に回すのは、将来にツケを回す行為と見なされます。
「米国債」は簡単には売れない
外為特会の資産の多くは「米国債」です。これを予算として使うには、一度売却して「円」に戻す必要がありますが、ここに高い壁があります。
日本が数兆円〜数十兆円規模で米国債を売り浴びせれば、米国の金利が急騰し、米国経済に打撃を与えます。これは日米の同盟関係において極めてデリケートな問題であり、米財務省との高度な政治的調整なしには不可能です。
おおよそ同額の「負債」がある
外為特会は、資産だけを持っているわけではありません。高市総理が仰った「円安メリット」としての外為特会の収益は、あくまでこの**「膨大な負債」を上回る運用ができている時だけのものです。外貨準備は全額が余剰金ではなく、裏に同額の借金があります。
財務省の資料を要約すると、以下のようなバランスになります。
| 資産(ドル建て資産など) | 負債・純資産(円建て借金・積立金) |
|---|---|
| 外貨準備(時価合計)約 205.5 兆円 (内訳) 米国債等の有価証券約 174.0 兆円 金(ゴールド)等約 17.6 兆円 IMF債権等約 13.9 兆円 | 借金*(為券等):約130兆円 |
| 純資産(積立金):約75兆円 |
- 借金で作ったサイフ: ドルを買う原資は「為券(外国為替資金証券)」という借金です。
- 「純資産」で見るとイメージが変わる: 資産から負債を引いた「純資産」こそが本当の余裕分ですが、この純資産をすべて抜き取ってしまうと、万が一の円高時に、借金(負債)だけが残るという極めて不健全な財務状況に陥ります。
財務省:外為特会の財務状況
- 資産総額:財務省:外貨準備等の状況(令和7年12月末現在)
- 過去の財務構造: 令和5年度決算(外国為替資金特別会計) ※資産側の最新値を確認するためのページです。
まとめ:外為特会と「私たちの家計」のつながり
外為特会が「ホクホク」な状態(円安)のとき、私たちの家計は「物価高」という痛みを伴います。しかし、その痛みと引き換えに溜まった特会の利益を政府がうまく活用できれば、 本来必要だった「増税」を回避したり、物価高対策の給付金として還元されたりする可能性があります。
円安を止めるために外為特会が「為替介入」を行い、米国債を大量に売却すれば、米国の金利が上がり、巡り巡って日本の長期金利も押し上げられます。これは、私たちの住宅ローンの固定金利が上がるという形で家計に跳ね返ってきます。
「外為特会がホクホク」というニュースは、単なる政府の儲け話ではありません。
- 円安で生活が苦しい今、その一部がどう還元されるのか?
- 将来の円高リスクに備え、国の財政は守られているか?
これらをチェックすることは、私たちの「将来の税金」と「今の生活コスト」のバランスを監視することに他なりません。
